【ショートショート】デリート【短編ホラー】

オタク

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皆さんお疲れ様です。

オタクリーマンのtoi3です。

本日は、過去に作成した短編ホラー晒しです。

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デリート/消去

時計が15:45を示していた。
16:00の町内放送まであと15分だ。
さて、目の前の少女は誰だっけ?
何故私は彼女と喫茶店でお茶をしているんだっけか。
「ただ、壊したかっただけ。大事に育てて大切に築いた何かを壊したかった」
目の前の少女の目は虚ろ。
一方で話している口調からは端端に期待に満ち溢れている。
「それは酷いことだね」
「わかっている」
「ほんとに?」
「ほんとうに」
「その行為に愉悦はなくて、もちろん快感もない、むしろ罪悪感と胸に奔る痛みにココロが摩耗しているのがわかるの。それでも滅茶苦茶にしたかった」
「羨ましかった?」
「いや、道端の石ころと変わらない価値しか見いだせなかった」
「死ねばいいのに」
「死にたいよ」
「うそでしょ」
「…そうだね、死にたくはないかも、痛いのは嫌だしね。
 それに自分という存在がなくなるのは怖いね、だから」
「だから?」
「私は消えたい。そもそも最初から存在しなければ、こんな思いはしなかった」
「そんなこと言ったらご両親が悲しむよ?」
「そうだね、だから言わないよ。でも、私という存在が元々いなければ両親が悲しむこともない、だから」
「だから?」
「私は私を根本からデリートすることにしました」
「どうやって?」
「これだよ」
それは携帯音楽視聴機だった。いまではどこにでも売っていて学生が少しお小遣いを貯めれば購入できてしまう安価な物だ。
「深層心理まで到達する催眠音波らしいよ。曰く、聴いた人の人格を別人にしてしまう」
「うさんくさー」
「そうだね、でも効果はあったみたい」
「試したの?」
「うん」
「誰で?」
「誰だったかな」
少女はまじまじと私を見つめてくる。
心臓がドクンと一鳴りした。
時計は15:57し示していた。
16:00まであと3分だ。
「そ、その催眠音波が仮に本物だったとしても、他の人は自分の事を覚えているんだから最初から存在しないことにはできないよ?」
「そうだね、自分だけが聞いて別人になっても、他の人が私を覚えていたら消えたことにはならないね」
なぜか私は不安になってきた。
時間がないと感じている。何に?
「でも、全員が聞けばいいんじゃないかな?」
「ぜ、全員?」
「そう、例えば町内全体に流れる16:00の町内放送で催眠音波を流して、町の人全員を別人にしちゃったらどうかな?私という存在を知っている人はいなくなるんじゃないかな?そして私自身も別人になれば、それは私がいなくなるって事と同義なんじゃないかな?」
「……そ、それは」
時計は15:59を表示している。
16:00まであと1分。
声が出なくなる。
なんだ? この少女は何を言っている?
そもそも、この少女は誰だ?
そしてテーブルの上に置かれたイヤホンは何だ?
いや、それよりも大事な事は、
私は誰だ?
「怖がらなくて大丈夫だよ、貴方は2回目だから」
少女の声と共に16:00の町内放送が鳴り響いた。

了。

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