【ショートショート】魔法使いのはなし【ホラー&クトゥルフ】

オタク

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皆さんお疲れ様です。

オタクリーマンのtoi3です。

本日は、昔、作成したショートショートの晒しです。

ホラー&クトゥルフ神話の短編です。

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魔法使いのはなし

昨日と同じ、いや、確か一昨日も同じ服装の人間が一人。
Y研究所のとある食堂の一番右奥の席に座って蕎麦をすすっている人影がある。

「御堂先輩、ここいいですか?」

「ん?……工藤君、か。
 君、周りに席はたくさん空いているが?」

先輩の声と同時に-ッ-ッ-ッと先程注文した定食のトレイの上から音が響いた気がした。
特に料理に違和感はなく、虫でもたかったか様子もない。油が跳ねる音だろうか。

「知り合いが御堂先輩しかいないからですよ」

時刻は午後16:40。
黄昏時の空が食堂全体を黄色く染めていた。
お昼にしては遅く、夕飯にしては早い時刻のため食堂は閑散としている。
一人で食べるのも寂しいので知り合いを探していたところだった。

「ふむ、ちょうどいいか」

箸を止めていた時間は数秒。
先輩の2本の腕は再び、湯気を立てている蕎麦へと動き始めた。

「頭、どうかしたんですか?包帯なんかしちゃって」

「軽いを手術をね。君がこうして話してくれているのなら、手術は成功したようだ」

「はい?」

西瓜よりもふた回り小さい後頭部に白い包帯が2回、3回と巻かれている。
よく見ると1点、側頭部側に小さなガーゼがおさえられており、淡く赤いシミがついている。
その赤は何故かとても食欲を唆る色で、私のお腹がクゥと音を立てた。

「その、お腹すいちゃってて、あはは。
 あ! 今日もそばですか? 栄養偏りますよ!」

「そうだな」

「いつもかけそばですね」

「そうだったかな」

「他のごはんはダメなんですか?
 今日のA定食のステーキとか滅多に食べれない激レア肉の活け造りですよ?
 なんでも、近場の狩猟場で数年ぶりに捕獲できたらしいです」

「どうやらそのようだね、工藤君」

-ッ-ッ-ッとまた音が響く。
どうやら、活け造りの口蓋から発する音のようで、
よほど新鮮なんだと感心してしまう。

「君、聞いているかね?」

「は、はい!? なんでしょう御堂先輩!」

「邪魔なので向こうの席に移ってくれないか?」

「あ、ごめんなさ…」

邪魔? いま、邪魔って言われた!?
ただ、お昼一緒に食べているだけなのに!?
会話しようとしただけなのに!?

「あのですねー22歳の女の子相手にそのいい方はどうかと思いますよ?」

「ふむ、君は22歳で女性なのか」

「……先輩、喧嘩売っているんですか?」

「何のことかな? 確認を行ったまでだが」

「もぅ、いいです。どうせ先輩はそんな人ですよ。でも邪魔って酷くないですか!
 私なにもしていないじゃないですか」

「私の視界に入っているね」

「…えい」

「君はなぜ私の蕎麦に七味唐辛子を大量投入しているのかね?」

「自分の胸に聞いてください」

「ふむ、どうやらこの七味唐辛子には動物の肉片が入っているね。
 これでは食べれないではないか」

「私を怒らせるベジタリアンな先輩が悪いんですよ」

「やれやれ、困ったものだ。どうもまだ微調整が必要なようだね。
 しかし問題が一つ明るみにできた。そういう意味では君は役に立つ」

「先輩はわけわかめですよ」

「私は理路整然と喋っているつもりだがね、そうは思わないかい?」

思いません。と言おうとしたところで、
-ッ-ッ-ッとまた音が響いた。うるさい。
だが先程に比べて音は弱くなっている。もう少しで止みそうだ。

「そういえば、君」

「はぁ…なんですか御堂先輩」

「実は昨日づけで私は魔法使いになった」

「はい?」

「魔法使いだ」

「えーっと、ギャグですか?」

「本気だが?」

30歳で女性経験がない事を暗に示しているのか?
いや、そもそも先輩30歳じゃないし…
何かの隠語?……わかんねー!

「わかりました、議論を円滑にする為に、魔法使いの定義を共有かさせてください」

「了解した。端的に言えば、クラークの第三法則」

「えーっと?」

「魔法使いとは数千年以上先の科学を手中に収めた者の総称。ということだ。
 例えば、火を起こす事すら困難な文明レヴェルの知的生命体がいたとする」

「はい」

「その知的生命体にとってはライター1本が既に魔法。という事だ
 彼らにはできない事を簡単な手の動き一つで火を起こしてしまうのだからね。」

「あーはいはい、そういうことですか。わかりました。
 今の定義からすると先輩はとんでもなく先進的な科学技術を取得した、ということですね?」

「そうだ」

「じゃあ、どういう魔法が使えるんですか?
 空を飛んだり過去に戻ったり傷を治せたりしちゃうんですか?」

「一言で言えばN型多次元式理論とミクロ認識変換投影法の融合およびその応用だね。
 そしてその効果は今現在も発揮されている。」

「全く、何を言っているかわかりません。それに今、何もおきていないじゃないですか」

「その何も起きていないという事が魔法だ。周りを見渡してみたまえ」

「はァ・・・そうは言ってもですね」

周りを見渡すもそこはいつもと変わらない食堂。
ポツリポツリと見える学生達も何ら変わることはない。
耳元まで裂けた2つの口でお喋りをするカップル。
体中から生えた触手を巧みに使いレポートを仕上げる男子生徒。
複数の目をギロリとさせ不審者がいないか仕事に励む警備員さん。

「何も変わっていませんよ?」

「そうだね、ところで君は今、何の肉を食べているのかな?」

「ヒトの活け造りですね」

バリバリと頭蓋骨を咀嚼する。
私は6本の腕を使って、人間の活け造りを咀嚼する。
パリッと焼かれた外側の皮膚と歯応えある頭蓋。中から溢れ出る
脳汁が独特の味いと食感を演出していて、とてもおいしい。
先程のッーッーという音は完全に止んでいた。

「私、特にこの目玉が好きなんですよねー
 ところで、先輩、先程から工藤君とよく仰っていますが、どこの誰です?」

皿に盛りつけられた生の眼球をコロコロとスプーンで転がす。
ゼリーの様な弾力がたまらない。

「君が食している彼が工藤君、私の友人だ」

「あ、ごめんなさい!」

勢い余って目玉を潰してしまった。
目玉から飛びでたガラス体が先輩の服に飛び散る。

「構わない。工藤君の今際の際に立ち会えて満足だよ。
 彼の手術のおかげで私は魔法使いになれたのだからね。
 未確認生物の認識器官の自動操作による擬態と言語変換によって
 コミュニケーションを可能とする小型チップの脳内埋め込み。
 君は私が捕食対象であると認識しているにも関わらず、先輩であると錯覚している。
 これが、魔法以外のなんだというのだろうか?」

先輩は衣服を汚した事に対して怒ってはいないみたいだ。
いつもの小難しい話はスルーして、私は安心してヒトの肉片が入った七味唐辛子に6本の腕を伸ばす。
それにしても、最後の言葉は理解できなかったが、あれば魔法の呪文か何かだったのだろうか?

了。
 

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